何年か前、頻繁に美術館を訪れる時間を作ったことがあります。
当時お世話になった方の愛読書に「和樂」があったことと、
購買していた新聞の美術館コーナーが豊富だったことが後押しとなりました。
好きなジャンルが何とか、何派の絵が好きとか、そういった知識はほぼ無く、
記事を読んで「気になるから行ってみる」が当時の私の合言葉でした。
そうしているうちに、
西洋美術は印象派(シスレー)が好きとか、
少し遠い美術館へ足を伸ばして見た版画に、心を奪われたり。
次第に好みがわかるようになりました。
そして、
私の心を大きく揺らした版画が、日本を代表する吉田博さんの作品です。
初めて見に行ったのは2016年。
千葉市美術館で開催された「生誕140年 吉田博展」でした。
彼の代表作の一つに「瀬戸内海集 光る海」という作品があります。
その美しさに、これが版画?という衝撃が走ったんです。
彼はもとより西洋画家として活動しており、
当時の若い画家たちが渡仏する一方で、
吉田氏は行き先にアメリカを選び、渡った先で成功します。
その後、版画へと舵を切っていくのですが、
当時海外で持て囃されていた「版画=浮世絵」という状況に不満を抱き、
ご自身の進む道を変えたそうです。
「そこに新しい風ばふかしちゃるけん!」ということだったのでしょう。
版画に西洋画の要素を取り入れたことで作品には奥行きが生まれ、
風景ひとつにしても乾いた風なのか、
湿った風なのかと、空気にも色がついたようでした。
富士山という被写体を他方向から描いたシリーズ(「富士拾景」)、
同じ版木を使い、時間の経過を表したシリーズ(「瀬戸内海集 帆船」)、
また晩年近くの作品では、なんと100回近くも摺色を変えて出来たものも!(「陽明門」)
・・・推したい作品がありすぎて、困ります笑
現在、東京都美術館で「没後70年 吉田博展」が開催中です。
3月28日(土)までと会期終了間際なのですが、
お時間ある方はサイトをチェックしてみてください。
吉田博さんの夢は、版画で世界一周をすることでしたが、残念ながらそれは叶わず。
(超現場主義の彼は、スケッチのために現地・諸外国へと足を伸ばしていました)
けれど、
コロナ禍で旅をできないこの状況で「旅をしてきた」気持ちになる作品に出会えることと思います。